top of page
執筆者の写真alt-alc,ltd.

世界を獲った Japanese Craft Gin -季の美-

更新日:2020年3月26日





インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション 2018のコンテンポラリー・ジン部門でトロフィーを獲得したことでも知られる「季の美」のメーカー京都蒸留所が、ワインとスピリッツで世界2位のフランスの酒造メーカー、ペルノ・リカールと今月4日に資本提携を発表した。


日本のクラフトドリンクはいかにして世界を獲るブランドにのし上がっていったのか?

グローバル展開を見据える中小メーカーには何が求められるのか?


季の美の4P分析

まずは、季の美というブランドについて、4P 分析をもとに考えてみたい。

4P分析とは?という方のために、以前『オルタナティブという概念について - 4P分析をふまえて -』でも紹介した説明を下記に付けておく。

 

4P分析とは、事業を4つの側面、つまりProduct(製品)、Promotion(プロモーション)、Price(価格)、Place(流通/立地)の4つのPから考えるマーケティング戦略を考える際のツールの一つである。

マーケティング戦略とは、基本的にこれら4つの組み合わせであると言われる。

 

1. Product(製品)


Productについては、カテゴリー策定、商品コンセプト、製造、パッケージングという四つの面から見ていく。


‣カテゴリー


季の美については、京都蒸留所は「国産の(日本産の)スーパープレミアムクラフトジン」という表現をしている。


今でこそ、一般となったクラフトジンという言葉であるが、季の美の販売がスタートした2016年当時の日本においては、一般的な言葉ではなかった。それは、下記のGoogle Trend からもそれがうかがえる。


Google Trend 「クラフトジン」2015/1/1~2020/3/21

また、ジン専門の蒸留所はそれまで日本になく、日本初となるジン専門蒸留所という点でもクラフトジンという(日本における)新ジャンルの説得力を持っていたと考えられる。


‣商品コンセプト


一方海外ではそのころには既にCraft Ginの概念は普及しており、ジャパニーズボタニカルにフォーカスして製造を行ったという点でもしっかりと差別化がされているといえる。


京都という土地についても京都蒸留所は、クラフトジン造りのための良い水と高品質な食材、伝統的な食文化を有しており、国産のクラフトジン造りの拠点としても発信地としても非常に魅力のある土地であることに言及している。


‣製造


製造面では、ヘッドディスティラーにワールド・ジン・アワードで世界No.1ロンドンドライジンに輝いた「コッツウォルズ ジン」を開発したアレックス・デービス氏を迎えており、実力・経験・客観的な評価を併せ持っているといえる。


そして、アレックス・デービス氏の右腕には、バーテンダーの経歴とアラン蒸留所でのウィスキーディスティラーとしての経歴を持つ元木陽一氏を迎えており、ジンとウィスキーという多角的な視点からクラフトジン蒸留にアプローチできたことが推察される。


‣パッケージング


実際の中身に負けず劣らず重要になってくるのが、商品の外観であるが季の美はこの点においても、一切の妥協がない。


日本で唯一江戸時代から続く唐紙屋を継承するKIRA KARACHO(雲母唐長)が文様監修したデザインを用いており、国産/ジャパンメイドであり、国産ボタニカルにフォーカスしているというブランドコンセプトと事な一貫性を持っている。



2・3. Place(流通)Promotion(広告宣伝)


良いものを作ったが売れないというのは、どんな業種にも通じる問題である。


その原因としては、おおまかに、そもそも商流を持っていない、適正価格にない(あるいは価格説得力がない)、商品認知を広げるためのPRができないなどの問題があると思う。


価格については、後述するとして、まずは商流と広告宣伝について見ていきたい。この二つについては、季の美を作る京都蒸留所という組織を見ていくとすぐに見えてくる。


京都蒸留所の母体は、スピリッツやリキュール、ビールなどの輸入卸を生業とする株式会社ウィスクイー( https://whisk-e.co.jp/ )の代表およびウィスキーマガジン( http://whiskymag.jp/ )の元編集長が中心となって2014年に経ちあげた株式会社Number One Drinksである。


株式会社ウィスクイーは1995年に日本に参入しており、ディアジオやペルノリカール、バカルディといった巨人がひしめき合うスピリッツ業界でクラフトマンシップにあふれるブランドを日本に紹介し続けている。


実際に販売スタートした2016年10月には、リッツカールトン京都のヘッドバーテンダーとのコラボレーションイベントを企画したり、2016年末までに様々なところで販売されていることが確認できる。


さらに、冒頭でも紹介したように、製造開始2年でインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション 2018のコンテンポラリー・ジン部門においてトロフィーを獲得したという快挙を成し遂げており、製造までのプロセスだけでなく、最終商品にも客観的なお墨付きが与えられている。


このように見ていくと、積極的なグローバル展開を想定してしまいそうであるが、京都蒸留所としては国内市場を一番に考えており、国内市場で欠品が起きないよう輸出には常に気を遣っているということである。


安易に大きなパイに飛びつかず、自分たちがコントロールできる範囲に注力し地道にその輪を広げていくよう動いていくという堅実な方法は、独り歩きしがちなグローバル戦略を考える際に重要な視点かもしれない。



4. Price(価格)


ここまで紹介すれば、「スーパープレミアム」という謳い文句にも正当性が見えてくる。


季の美はスタンダードレンジでもメーカー希望小売価格が5000円という価格であり、ボンベイサファイアなど2000円以下のジンが主流の中でどれだけハイレンジであったかがわかるかもしれない。


しかし、ヴェブレン効果などの言葉もあるように、価格の高さが消費を促進するということも十分に考えられる。得てして、お酒の世界では、特別感や限定感を出すために、消費が極端に一般化化することを嫌う傾向がある。


価格の高さは、商品の消費の過度な一般化を避ける意味合いでも非常に効果的な策であるといえる。


京都蒸留所の5Forces分析

次に、京都蒸留所というプレーヤーの立場を客観的に理解するため5Force分析を使って簡単に考察してみる。


5Forces分析とは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した業界分析の手法で、五つのプレーヤー、競合(Competitor)・売り手(Supplier)・新規参入(New Comer)・代替商品(Substitute)・買い手(Buyer)から業界構造を俯瞰するものである。


1・2. Competitor(競合)New Comer(新規参入)


ジャパニーズクラフトジンという当時は競合のいないブルーオーシャンで戦うことでなり、新規参入もクラフトジン市場創造の一助となり(実際に2018年あたりから積極的になっている)、また季の美のパイオニアとしての地位をより一層確かなものとしくれる。


そういう意味では、基本的に5Forces分析においては、五つのプレーヤーはそれぞれ自社から利益を奪っていく脅威という捉え方で見ていくものであるが、市場創造のパイオニアという立場に立つことで、新規参入やその後の競合の存在が自社に優位に働きうるという状況が想定できる。


ジンやクラフトジンというより広い枠組みで考えても、そういった既存のフレームワークがあればこそ、IWSCのコンペティションのような客観的な評価軸が存在したことも重要なポイントだろう。


3・4. 売り手(Supplier)Buyer(買い手)


ボタニカルなどの売り手・買い手との関係を考えた場合も、希少な原材料を使用しているとは言え、後続のメーカーと比較すると、先行者優位が働き、より強い交渉力を維持できるのではないかと推測できる。買い手交渉という点でも、既に商流を確立しているウィスクイーという母体があればこそ、有利な交渉が可能になる。


5. Substitute(代替商品)


最後に代替商品という視点であるが、現在見ている限り、「国産クラフト」というジャンルが強まってきている今日、代替財となりうるプレイヤーの存在(例.クラフトスピリッツ)は、やはり京都蒸留所に資する流れとなりうる。


世界水準で戦える国産ブランド創り

結果ありきの考察という手法柄、一見すると京都蒸留所に都合の良い事情が並んでしまったが、実際には様々な困難・挑戦の結果として今日を迎えているであろうことは言うまでもない。


しかし、季の美の成功は、世界水準でのモノづくりを考えている分野のメーカーに学びを与えてくれることは間違いないと思う。


流通網・ヒト・モノにおける事前の準備、企画から販売チャネルまでの一貫した戦略など京都蒸留所は季の美を通じて私たちに様々なことを教えてくれている。


参考サイト

京都蒸留所:https://kyotodistillery.jp/

『「季の美」独占取材!いかにして京都から“世界最高のジン”が生まれたのか?』 Liquor Page

『『季の美 京都ドライジン』のご紹介』BAR TIMES

『京都初のジン蒸溜所、遂に始動!スーパー プレミアム クラフトジン『季の美』10月発売へ』 PRwire

『日本で初めてのジン専門蒸溜所』Whisly Magazine



Comments


bottom of page