今回は、弊社でも取扱いのあるShrubというカテゴリーとその歴史について説明していきたい。
Shrubとは
Shrubとは、もともとアラビア語で「飲む」を意味するSharabという言葉が語源となっている。
より一般的なSyrup(シロップ)やSorbet(ソルベ)、Sherbet(シャーベット)もSharabを語源に持つ言葉である。
Shrubには、二つの意味が存在する。
フルーツジュース、ビネガー、砂糖、水、ハーブやスパイスなどの副材料からなるノンアルコール飲料。
フルーツジュース、ビネガー、砂糖、スピリッツ、水からなるアルコール飲料
Shrubの歴史
古代のビネガー飲料POSCA
Shrubのようなビネガー飲料の歴史は、ワインの歴史の表と裏とも言え、非常に長い歴史を持っている。
4000年以上前の古代エジプトでは、つぼやかめに入ったビネガーが発見されており、中国ではビネガーの利用について書かれた、少なくとも3000年以上前の文献が見つかっている。
Shrubの前身ともいえる飲料は、ギリシャで飲まれていたPoscaと呼ばれる薬用性炭酸水。
これは、酸化の進んだワインやビネガーを水や風味付けハーブとブレンドしたもので、ローマの兵士や身分の低い人々は日常的に飲用していた。
Poscaは、不衛生な真水をビネガーの殺菌作用で安全に飲めるようにするという役割や、ビネガーからビタミンCを摂取することで壊血病などの病気の予防などの役割を持っていた。
ノンアルコール飲料としてのSherbet(シャーベット)
Shrubの語源とも言われているSherbetは、トルコやペルシャにおけるSharabの派生語にあたる。
当時のSherbetという言葉は、今日のアイスのイメージとは異なり、ムスリムの間で飲まれたノンアルコール飲料を意味していた。
Sharabという言葉とともに、酸味のある飲料が世界に広まり、その一つがこのSherbetとなったと推測できる。
Sherbetは、砂糖に柑橘ジュース、スミレなどの花、ハーブやナッツを漬け込んだ飲料であった。
西欧でのShrub
Sherbetが、16世紀にヴェニス経由で西欧に持ち込まれると、イタリア全土に広がっていった。
奇しくも大航海時代にあった西欧は、長い船旅の中での壊血病を予防するためにビタミンCを効率的に摂取する方法として、ビネガーを加えた飲料が奨励され、瞬く間に広がっていった。
このあたりから、Sherbetという言葉がなまってShrubという言葉が使われ始めるようになる。
こうして、航海をへて植民地時代のアメリカにもShrubは普及されていった。
植民地時代のShrub
植民地時代の新大陸でShrubは広まるが、ここからアルコールとしての側面も出てくる。
ラムの発祥ともいわれている17世紀ごろにおいて、蒸留酒の品質はまだまだ安定せず、多くは低品質であった。
そのため、その味わいをごまかすためにShrubで割って飲むというスタイルが広まったのではと一説では言われている。
実際、Shrubという言葉が出てくる植民地時代の最も古い文献は、1743年に編纂された、16,17世紀のとある牧師の著書であり、ここでは次のように紹介されている。
「Shrubとはラムやブランデーとともに作られる非常に心地よいお酒のことである」
禁酒法時代のShrub
アルコール、ノンアルコール双方の面を持つようになったShrubであるが、禁酒法時代には、それまでお酒に混ぜて飲まれていたということも相まって、お酒の飲めない環境下での代替として広く飲まれるようになった。
もちろん、密造酒や密輸酒の割材としても相変わらず使われており、真偽のほどはわからないが、
「禁酒運動下、警察の検閲を逃れるために、海に沈めたラム樽に海水が入り込んでしまい、味わいをごまかすため、Shrubを混ぜて飲まれた」
といった逸話も残っている。
20世紀のShrub
20世紀に入って禁酒法が解かれると、Shrubの人気は急激に落ちていき、しばし忘れられた存在となる。
これには以下のような理由が考えられる。
お酒が飲めるようになった
冷蔵庫が普及し様々なタイプの飲料が楽しめるようになった
コカ・コーラのような大手炭酸飲料メーカーの出現
それまでのShrubの強みの一つは、保存性の高さにあった。
つまり、砂糖やビネガーの存在が、冷蔵庫のない世の中では数少ない保存のきくノンアルコール飲料であった。
しかし、冷蔵庫の出現により、アルコールの含まれない飲料でも長期にわたって保存ができるようになった。
さらに大手炭酸飲料メーカーが出現したことで、消費者はこれまでの以上の選択肢を享受できるようになったのである。
21世紀のShrub
一時期、文化が消え去ったかに思えたShrubであったが、アメリカなどでは根強く製造されており、完全に文化が消えることはなかった。
21世紀に入り、アルコール離れなどが進む現在、禁酒法制定から一世紀が経つ現在において、アルコールを飲めない時代に人々の拠り所となったこの飲料は再評価されるようになった。
これまでになかったハーブやスパイスを楽しめノンアルコール商材としてバーシーンをはじめ、レストランなど広く注目を集めている。
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参照文献
"SHRUBS AN OLD-FASHIONED DRINK FOR MODERN TIMES" Michael Dietsch
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