
食の科学として、香気成分や呈味成分を見ていく前に、まず味覚と嗅覚のメカニズムを理解していきたい。
今回は味わいのメカニズムから見ていきたいと思う。
味わいのメカニズム
食べ物や飲み物を摂取すると、
まず、舌や口内に存在する味蕾に含まれる、
味細胞の先端にあるミクロビリーと呼ばれる突起で味細胞を受容し、
味わいのうち、甘み、うまみ、苦みはGタンパク質共役型受容体を通じて、
酸味、塩味はイオンチャネル型受容体を通じて、
呈味成分が感受され、最終的にシナプスを介して味覚神経、脳へと刺激が伝わる。
*味蕾は口中におよそ2000~5000個存在し、味細胞は、一つの味蕾中に30~70個存在するといわれている。
►1.まず、舌や口内に存在する味蕾に含まれる、
味蕾は舌や軟口蓋に存在し、乳頭と呼ばれる突起についているが、この突起は、場所と形でいくつかに分類される。
茸状乳頭:舌の先端に分布し、鼓索神経に連絡している。舌上の味蕾の30%ほどを占める
有郭乳頭:舌の後方に分布し、舌咽神経に連絡している。舌上の味蕾の40%ほどを占める
葉状乳頭:舌の側方に分布し、鼓索/舌咽末梢神経に連絡している。舌上の味蕾の30%ほどを占める
*鼓索神経、舌咽神経は、ともに味覚をつかさどる味覚神経ともいわれる
舌上の味細胞は、10日ごとに一新される新陳代謝の高い組織である。
►2.味細胞の先端にあるミクロビリーと呼ばれる突起で味細胞を受容し、
味細胞は、本来上皮細胞から分化した細胞である。
その点、後述する嗅覚神経から分化した嗅覚細胞と異なる。
►3.味わいのうち、甘み、うまみ、苦みはGタンパク質共役型受容体を通じて、
Gタンパク質共役型受容体とは、光や香り、味わい、フェロモンといった外界から受けた刺激物質と結合し、情報として変換する役割を果たす。
味わいにかんするGタンパク質共役型受容体は、甘み、うまみに働くT1rファミリーと苦みに働くT2rファミリーに分類される。
さらにT1rファミリーには、T1r1、T1r2、T1r3の三つが存在する。
T1r1:茸状乳頭に強く発現し、うまみに働く
T1r2:茸状乳頭と葉状乳頭に強く発現し、甘みに働く
T1r3:すべての乳頭に強く発現し、うまみ・甘みの双方に働く
乳頭の種類により発現のしかたは異なるものの、発現自体はすべての乳頭でするので、舌のどの部分でも味わいを感じることができる。
かつて通説とされていた味覚分布地図の誤解はこういった、発現強度の違いも一因があるのかもしれない。
一方T2rファミリーは、苦みに対して働く。
T1rファミリーとの異なりは、受容体の数の多さである。T2rファミリーの受容体は40~80個とも言われ、甘みやうまみと比べて、様々な種類の苦みに対応できるようになっている。
►4.酸味、塩味はイオンチャネル型受容体を通じて、
酸味や塩味は、TRP(Transient Receptor Potential)チャネルの一種であるイオンチャネルを通じて、知覚される。
TRPチャネルは、温度や浸透圧、酸化還元状態やカプサイシン、メントールなどの化学物質の情報を伝える。
刺激物質と結合して作用するGタンパク質共役型受容体と異なり、細胞外のH+(酸味)やNa+(塩味)などのイオンを透過させることで、味覚情報を伝えている。
塩味や酸味は主に、葉状乳頭で強く知覚され、イオンチャネルを通じ、鼓索神経、舌咽神経を経て情報が伝達されていく。
►5.呈味成分が感受され、最終的にシナプスを介して味覚神経、脳へと刺激が伝わる。
鼓索神経や舌咽神経などの味覚神経は、延髄孤束核を経て視床味覚野、大脳新皮質味覚野に至る。
余談になるが、脳内で快感として捉えられるのは、甘みとうまみ、そして低濃度の塩味であり、進化の過程で腐敗と認識されてきた酸味、毒と認識されてきた苦みや高濃度の塩味は不快感として捉えられる。
▶関連記事を読む
『嗅覚のメカニズム』 https://bit.ly/2PzyP1W
参照サイト
『味覚の受容と味蕾細胞分化び分子メカニズム』 鹿児島大学歯学部紀要 三浦 裕二
"Molecular Mechanisms of Taste Recognition: Considerations about the Role of Saliva"
『わかりはじめた味覚の分子メカニズム』食品機能部味覚機能研究室 三浦 裕仁
『味覚研究の最前線-塩味受容を中心に』 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授 朝倉 富子
『味覚の相互作用』 東北大学大学院農学研究科教授 駒井 三千夫
Komentar