前回の『ノンアルコールワインの製造方法』に引き続き、今回はノンアルコールビールの製造方法を見ていく。
ワインの時は発酵のタイミングで場合分けして、個別の技術を見ていったが、今回はノンアルコール化技術を生化学的アプローチと物理的アプローチの二つで大別して見ていく。
生化学的アプローチ
生化学的アプローチは、さらに三つの手法に分割することができる。
専用酵母の使用
発酵の途中停止
コールド・コンタクト・プロセス
►専用酵母の使用
これが、最も一般的なアプローチ方法である。
ノンアルコールワインでも紹介したが、通常ビールの醸造に使われる酵母は、サッカロミケス属の出芽酵母である。
しかし、サッカロミケス属の中でも、Saccharomycodes ludwigiiなどは、スクロースやフルクトースを発酵させるものの、マルトースやマルトトリオースを発酵させないため、ノンアルコールビールの醸造に用いられる。
麦汁をSaccharomycodes ludwigiiで120時間、20度で発酵した場合のアルコール度数は1%にも満たない。
►発酵の途中停止
酵母を取り除くことで、あるいは温度を下げることで、発酵を途中でやめてしまう手法。
発酵は低温状態で150時間から200時間行われる。発酵の間、麦汁は酵母の増殖を抑え、代謝を遅れさせるために空気に触れさせずにおく、こうすることで酵母はアルコールを生成しなくなる。
►コールド・コンタクト・プロセス
コールド・コンタクト・プロセス(CCP)の基本は、0~5度の低温での24時間程度の発酵により、アルコール生成を阻害する手法。
低温下におくことでアルコール生成は起こらないが、酵母の代謝作用などでエステル類などを生みだす。
物理的アプローチ
物理的なアプローチには、二つの方法が存在する。
熱の利用
浸透膜の利用
どちらの場合も通常のビール醸造の過程に別途のプロセスを必要とする。
►熱の利用
これは、ノンアルコール化の最もシンプルな方法である。
ビールを一度揮発させ、アルコールの成分を飛ばすというのがこの手法の基本である。
高温状態を長く続けると、色合いの過剰、風味の棄損、糖のメイラード反応などの弊害が生じるため、この方法は現在はほとんど使われない。
昨今はバキュームを用い減圧状態を作り出し、減圧下で沸騰温度を下げてノンアルコール化する手法が主流となっている。
この場合、高温の場合ほどではないにしろ、やはり香気成分が飛んでしまうため、あらかじめアロマを強めに抽出する方法やノンアルコール化されたビールに少量のビールやビールのアロマ抽出液を混ぜ合わせるといった方法が取られる。
熱の利用には、さらに三つの方法が存在する。
連続式真空整流 / Continuous Vacuum Rectification
薄層蒸発 / Thin-Layer Evaporation
流下膜式蒸発 / Falling Film Evaporator
1.連続式真空整流 / Continuous Vacuum Rectification
ガスを抜かれた状態のビールを43度から48度の温度帯で整流管の上から流し込む。
一方、整流管の下からはアルコールを選択的に溶け込ませる気体溶媒の蒸気を送り込み、ビールからアルコールを取り除いていく。
この過程を連続して行うことで、アルコール度数は0.1%以下まで抑えることができる。
しかし、この場合も香気成分の一部も取り除かれてしまうため、アルコールを豊富に含んだ蒸気から再度香気成分を抽出しなおし、ビールに戻す作業が必要である。
2.薄層蒸発 / Thin-Layer Evaporation
薄層蒸発は、『ノンアルコールワインの製造方法』でいうところのスピニングコーンカラム法などのことである。
減圧下の蒸発器にあらかじめ加熱したビールを注入し、遠心分離を活用することで、ビールを厚さ0.1㎜ほどの薄層化させ、すばやく揮発成分を蒸発させることでノンアルコール化させる。
この方法は、1秒以下というすばやい気化時間と低温により、熱による影響を最小に抑えることができる。唯一の欠点は、酸素が入り込んでしまう(酸化の)恐れがあるということである。
3.流下膜式蒸発 / Falling Film Evaporator
流下膜式蒸発は、最も安価で効率的な温度プロセスによるノンアルコール化の手法である。
減圧下であらかじめ加熱したビールを管に上から流し込み、並列する管には蒸気を通すことで、揮発成分の蒸発を促進させる。
容易で安価ではあるものの、揮発成分の蒸発により、㏗が高まる(酸度が低くなる)、香気成分が大幅に損なわれる、などのデメリットが存在する。
►浸透膜の利用
浸透膜の利用は、熱の利用と比較して熱による影響を抑えることができる。その一方で、設備費用などが高くつくというデメリットも存在する。
浸透膜の利用は、大きく以下の二つに分けられる。
透析法
逆浸透膜法
1.透析法
透析法とは、分子の大きさの違いと半透膜、分子の拡散の性質を利用し、特定の成分を分離する手法である。
ビールと透析液を半透膜で隔てると、アルコールを含まない透析液の方にビールからアルコールが漏れ出ていき濃度が均等になるまで拡散していく。
ただの透析液を用いると、アルコールとともに半透膜を通ることのできる呈味成分なども一緒に希釈されてしまう。この場合は、透析液にあらかじめ半透膜を通り抜ける成分を入れておくことで防ぐことができる。
2.逆浸透膜法
逆浸透膜法は、ノンアルコールワインの方でも紹介したので、そちらから抜粋する。
特定の物質のみを透過させる半透膜を用いることでアルコールとその他の成分を分離させる。
極微小の穴の開いたフィルターにビールを浸し、一定の圧力をかけることで、穴のサイズ以下の分子と穴のサイズよりも大きい分子に分別する。
ワイン槽に加圧し半透膜に透過させる(1→2)
↓
透過したものとそれ以外で分離(2)
↓
透過したものは、水とともに熱蒸留にかける(3→5)
不透過のものは、ワイン槽に戻す(4)
↓
熱蒸留にかけ、アルコールはワイン槽に戻す(5→6)
それ以外は集積する(5→7)
▶関連記事を読む
『ノンアルコールワインの製造方法』https://bit.ly/2lQaMxy
『ノンアルコールスピリッツの蒸留』 https://bit.ly/3eaQLHQ
参照サイト
"Production of Alcohol-Free Beer" Luigi Montanari, Ombretta Marconi,Paolo Fantozzi and H. Mayer
"Beer in Health and Disease Prevention" Victor R Preedy
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